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HP と Twitter を補完するとともに、互いの密接な連携を図るため、本ブログを開設した。三位一体を目指す。情報提供、広報活動、教育・啓蒙活動の一環として、肩の力を抜き、冗長性を廃し、簡にして要を得た文章を書くよう心がける。
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Dysnomia 正式版の公開
昨年暮れに投稿した PRIMA vs. ENIGMA というアグレッシブな記事の末段で、私は「いずれ PRIMA の後継ソフト Dysnomia を一般公開することにより、この勢いにはずみを付けたい。」と高らかに宣言した。その公約を果たせぬまま一年余りが過ぎ去ったのは慚愧に堪えないが、ようやくその日が訪れた。

当該記事はすでに賞味期限切れだ。本題に入る前に、現時点での最新データに基づき、その最初の段落を書き換えてみよう:
PRIMA による MEM 解析の結果を報告した論文は現時点で計155報に達している(Scopus 調べ)。一方、ENIGMA を利用した得た解析結果を報告している論文はその43%(67報)に過ぎない。
ことほど左様に、PRIMA は数多くの MEM 解析を用いた研究に貢献してきた。上記投稿中の文言を借りれば、依然として「つくば流」が「名古屋流」を圧倒しているといって過言でない。某放射光源でアクティブに活動している一大装置グループの自信作をあっさり張り倒してしまう強烈なパンチ力には、我ながら感心する。相棒の VESTA「普及に弾みが付いた VESTA: 1,000 を超えた総被引用数」参照)が世界的なキラー・アプリケーションにまでのし上がったのも PRIMA の人気を底上げしているのだろうが、それにしても瞠目すべき実績である。

とはいえ、PRIMA の正式版をリリースしてから早9年余り。空間群対称性をフルに活用した高速化技術は依然として色あせていないものの、その老朽化、機能・パワー不足、ひいては訴求力の衰えはもはや覆い隠せなくなってきた。
1. 複数の次数の一般化制約条件、
2. 格子面間隔 d のべき乗の形をもつ重み、
3. 情報エントロピー S が最大に近い解を与えるケンブリッジ流 MEM アルゴリズム、
4. 離散フーリエ変換(DFT)と高速フーリエ変換(FFT)の自動切り替え、
5. OpenMP によるスレッドレベルの並列計算
などを実現した Dysnomia のリリースが急務なのは明白だった。

1と2は、実際に粉末・単結晶回折データを解析する際、効き目のある ad hoc な便法だ。一般化制約条件は、高 Q 領域の反射における過剰フィットの傾向を大なり小なり改善できる。dX の重みも、そのような傾向を弱め、滑らかな電子・散乱長密度分布を与える効果をもつ。

国産 MEM 解析プログラムが採用している zero-th order single-pixel approximation (ZSPA) はヨーロッパの結晶学者から MEM もどきのガラパゴス方法論として厳しい批判にさらされてきた。大分前のことだが、ある著名研究者から「Sakata のアルゴリズム(ZSPA)は邪道だよ」と直々に拝聴したのを今でも覚えている。あんな紛い物は話にならないという口ぶりだった。なにしろ S が必ずしも最大にならないのだから、看板に偽りあり、数学的な厳密性に欠けている「擬最大エントロピー法」と指弾されても仕方ない面も多分にあった。ZSPA に加え、ケンブリッジのアルゴリズムが商用 MEM ライブラリーの MemSys 抜きで使えるようになれば、国際会議や国際誌などで後ろ指を指されたり、肩身の狭い思いをすることもあるまい。いずれにせよ、選択肢が増えるのは良いことだ。

フーリエ変換による電子密度→構造因子変換は MEM 解析の律速段階なので、FFT の追加はスケーラビリティーの向上をもたらす。徹底的に最適化された FFT ルーチンの導入はレベル1・2のキャッシュメモリーの有効利用と相まって、ピクセル数や反射数の大きい巨大データの解析を段違いに高速化する。

近年、日進月歩でパワーアップしてきたマルチコア CPU による並列処理くらいはサポートしないと、現時点では時代遅れの誹りをまぬがれない。ヘキサコアやオクタコアの CPU の強大な能力を眠らせておくようでは、もったいなさ過ぎる。

そこで今年の夏から、PRIMA の後継となる C++ プログラム Dysnomia の正式版を公開すべく鋭意努めてきた。このほど英文マニュアルも含めた Windows, OS X, Linux 版が完成したため、一昨日に JP-Minerals > Software > Dysnomia で公開した。マニュアル中に記載した LICENSE AGREEMENT を遵守してご使用いただきたい。マンモス化した RIETAN-FP や VESTA とは比べ物にならないほど小規模なミニソフトではあるが、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」と胸を張って言い切れる。国内外の結晶学的計算用 MEM 解析プログラムの頂点に立つ力作と自負している。

なお、出力ファイルに使用者の氏名が記録されるという某国産 MEM 解析プログラムの目玉機能は、残念ながら Dysnomia には備わっていない。ダウンロードした人の氏名を取得するという超絶技巧を当方が持ち合わせていないためだ(笑)。

やむを得ぬ事情から、当面は我々が講師を務めた講習会やセミナーの参加者や共同研究者にお教えしたパスワードを入力しないと、配付アーカイブファイルを解凍できないようにしてある。といっても、我々は放射光やパスル中性子源の粉末回折装置グループのように、露骨な囲い込み策(「ムラ社会の掟」参照)を弄する気など、さらさらない。数ヶ月後にはパスワード保護を取り去る予定だ。それまで待てないというせっかちな方は、シンクロトロン光利用者研究会、第2回 X 線回折散乱グループ利用者研究会(2013年1月30日)に参加していただけば、私の講演中でパスワードを教示する。

現在 RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイルに同梱している PRIMA は、過去の遺物として惜しげもなく捨て去る。すなわち、PRIMA は配付アーカイブファイルから近日中に姿を消す。泉をディレクター、Dilanian をプログラマーとして製作した VICS, VEND, PRIMA を VENUS 文明の文化遺産として「ソフトウェア博物館」に展示するのは控える。それらを形作っていたアルゴリズムやコードは VESTA と Dysnomia の血となり肉となり、今後、長年にわたり実質的に生き残るのだから。
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