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HP と Twitter を補完するとともに、互いの密接な連携を図るため、本ブログを開設した。三位一体を目指す。情報提供、広報活動、教育・啓蒙活動の一環として、肩の力を抜き、冗長性を廃し、簡にして要を得た文章を書くよう心がける。
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VESTA の両親 VICS・VEND秘話 ― 道楽の果て
RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル中の参考文献に日本結晶学会誌に掲載された五つの解説を追加しました。いずれも PDF ファイルを無償でダウンロードできます。これらはすべて RIETAN-2000に関する賞味期限切れの記事ですが、現時点で食べても腹をこわしたりはしないでしょう。

このうち「RIETAN 徹底活用ガイド (3) 電子・原子核密度分布の三次元可視化」は日本結晶学会誌初のカラー印刷となりました。図は VICS・VEND で描きましたが、今となっては後継の VESTA しか知らない人の方が多いのではないでしょうか。VICS・VEND については、この廃墟ページを参照してください。あくの強さと臆面の無さに辟易とするでしょうが。VICS・VEND のペアを含む VENUS システム全体については、
を読めば、2005年の時点におけるソフト開発の進展状況が把握できます。当時すでに完成度がかなり高かったことがわかるでしょう。自分で言うのもなんですが、1節と11節はなかなか凝った名文です。なお同年に発表した
の内容もほぼ同等ですが、編集作業時のミスにより Fig. 1と Fig. 5の背景を黄色にされてしまいました。残念至極です。

上記のレビューの執筆と同時期に発売された CD-ROM 書籍「セラミストのためのパソコン講座」には RIETAN-2000とともに VICS・VEND がソースコード込みで収録され、その完売を後押ししました。日本セラミックス協会の書籍が売り切れたのは異例中の異例と同協会のスタッフから伺いました。当時 RIETAN-2000の方はすでにネットで無償配付していましたから、VICS・VEND の為せるわざでしょう。上記講座で紹介された多種多様のアプリケーションのうち、当該 CD-ROM を通じて配付されたのが拙作ソフトだけだったことを誇りに思います。

翌年春に開催された同協会年会では「三次元可視化技術のインパクト」と題するミニシンポジウムまで開催させていただきました。個人的趣味と独断の産物に過ぎない VICS・VEND が学会のサイフをわずかながらも潤し、それらを年会で大々的にアピールする栄誉に浴したという珍現象には、正直なところ当惑しました。

VICS・VEND については、終始一貫、視覚に対する訴求効果こそ高いものの、学術的な独創性とは無縁の単なるユーティリティーという冷めた目で見ていました。それらはゲームソフトと同じく、3D グラフィック技術(OpenGL)を徹底活用し、半ば遊び心から開発したソフトです。自分の研究との相関係数はたかだか20 %程度でしょう。しょせん結晶・電子構造の三次元的理解のための便利で見栄えのする道具に過ぎず、それ以上でも以下でもありません。アーサー・コナン・ドイルは自作のうちシャーロック・ホームズものが圧倒的な人気を誇っているのを不快に感じていたそうです。自己の本分は歴史小説にあると堅く信じていたからです。同様に、心中さほど重きを置いておらず、少々遊びの度が過ぎたと反省すらしている3D グラフィック・ソフトをいくら賞賛されたところで、さほど嬉しくありません。私の主戦場はあくまで粉末回折なのですから。

残念ながら、手元にあった上記 CD-ROM 書籍はオフィスの引っ越し後に行方不明になってしまいました。しかし、そのイメージファイルは PC にしっかり保存してあり、DAEMON Tools Lite で即座にマウントできます。

VENUS システムのプログラマーとして採用した Ruben Dilanian は超伝導プロジェクトの資金で雇用しました。少なくとも半年間は雇用できるので、その間に原型が概成すると踏んで、可視化ソフトの新規製作を提案し承諾してもらいました。結晶学という本業から大きく逸脱し、業績として評価されず、しかも経験が皆無のグラフィックソフトの作成を命じられ、散々こき使われた挙げ句、三年後にはリストラの憂き目に遭った Ruben には気の毒なことをしました。VICS・VEND で実現した機能のほとんどは入出力ファイルの種類も含め、私が次々に指示しました。日の目は見ませんでしたが、マルチスライス法による透過型電子顕微鏡の結晶構造像(格子像)のシミュレーション・プログラムまで試作したのですから、脱線の誹りを免れません。

詳細なマニュアルの執筆は Ruben にとって恐るべき苦役だったに違いありません。一般にプログラマーはドキュメンテーションが苦手なんです。Ruben は家族を養うため、有無を言わさぬ指図に渋々従っていたのでしょう。ボスの酔狂な道楽につき合うのも大変です。まるでドン・キホーテの向こう見ずな暴走に振り回されるサンチョ・パンサではありませんか。その鬱屈が彼を PRIMA、さらには ALBA の開発へと駆り立てたのかもしれません。もっとも PRIMA は VICS・VEND と違って、ごく小規模なプログラムです。短期間で書き上がり、むしろ最適化に大半の時間を費やしたと記憶しています。

超伝導の研究が下火になってきた時期に Ruben を雇用するのには、経済的に四苦八苦しました。競争的資金の獲得は二年続けて失敗に終わりました。超伝導プロジェクトの予算がいつ尽きるかわからぬ状況下でソフト開発に専念してもらったため、原著論文はなかなか投稿できませんでした。任期付きの研究者にとっては致命傷になりかねません。しかし、Co 系超伝導体に関する Nature(本家)掲載の論文に二人して名を連ねることができたので、「結果良ければすべて良し」と相成りました。NIMS 発足後に発表された論文としては群を抜いて被引用数が高いですからね。これは PRIMA の最初の解析例でした(MEM 解析は数秒で終わりましたが)。さらに新超伝導体のリートベルト解析には RIETAN を、結晶模型の作画には VICS を使いました。超伝導に関する成果の乏しさを強運で乗り切ったという感じです。

一方 VESTA はプログラムにせよマニュアルにせよ基本的には VICS・VEND の延長線上にあります。VESTA で頻用される機能の9割以上は VICS・VEND 時代に実現していたものでしょう。したがって、開発にまつわる興味深いエピソードはこれといって思い浮かびません。一般にソフトウェアの製作はゼロからスタートし、たとえ拙くても動くようにするまでが一番大変で、その改良や拡張は段違いに楽な作業なのです。既成ソフトの改善や機能増強は創造性の発揮や産みの苦しみとは無縁で、ひたすら坦々と進むだけであり、ドラマチックな秘話や意外性に富むサイドストーリーなど生まれるべくもありません。

論より証拠、上記の CD-ROM 書籍 に収録された VICS・VEND のソースコードから VESTA と同様のソフトを製作するのは、比較的簡単です。半年から一年程度で完成するでしょう。「我こそは」という人はぜひチャレンジしてみてください。何の業績にもなりませんが、好き勝手にカスタマイズできます。

VESTA は高度な専門知識抜きで使いこなせ、広い研究分野をカバーしており、エンターテインメント性に富み、何よりも無料であることから、今や世界的普及を果たしています。CrystalMaker キラーといって過言でありません。著名な電子状態計算プログラム VASP については VICS・VEND の開発初期段階に東大の N 氏から入力ファイルと仕様書を提供して頂き、その出力ファイルを可視化できるようにしました。VASP のサポートが VICS・VEND、ひいては VESTA の知名度を一段と高めたのは確実です。

近年は VESTA に関する論文の被引用数の夥しさに目を付け、最新版の VESTA 3は NIMS の業務として開発したと言い張っています(Forty Years in Japan, Once More を参照のこと)。たとえ実態が個人的趣味に過ぎず、学術的価値は高くないとしても、NIMS の研究者二名が執筆した論文が今後、頻繁に引用され続けるのが確実である以上、そう取り繕っても一向に差し支えないでしょう。懇切丁寧なマニュアルが同梱されているため当該論文は見向きもされないはずで、被引用数のカウンター代わりと割り切っています。太っ腹な無償配付と破格の被引用数をもって学術的オリジナリティーの欠如の免罪符とする ― これこそ「趣味と実益」を兼ね備えたビジネスモデルに他なりません。自分たちよりは、むしろ組織に実益をもたらすところに社会的意義があります。外部評価の高低は組織にとって死活問題という時代の流れを読んだ上でのステルス・サイテーション。この「転んでもただでは起きない」姿勢は、我ながら見上げたものです。

明らかに VESTA で描いた図を文献の引用なしに使っている論文やレビューを時々見かけますが、マニュアル、プログラム (About VESTA)、Web ページに明記してある使用許諾契約を無視した心ない行為には強い憤りを覚えます。無料=無条件の使用許可ではないのです。といって、こういう迂闊あるいは無法な輩に一々抗議する気は毛頭ありません。世のため人のためになる建設的なことにエネルギーを振り向けたいからです。もっとも、こうして牽制球を投げておけば、不法使用も多少は減るかもしれませんが。

3月まで毎日書き散らしていた掲示板と同じ調子の冗長な文章になってきたので、この辺で終わりにします。ご静聴ありがとうございました。
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