お知らせ+活動記録+たわごと

HP と Twitter を補完するとともに、互いの密接な連携を図るため、本ブログを開設した。三位一体を目指す。情報提供、広報活動、教育・啓蒙活動の一環として、肩の力を抜き、冗長性を廃し、簡にして要を得た文章を書くよう心がける。
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RIETAN-FP v2.5 のお披露目セレモニー
12月15日(月)に名古屋工業大学(御器所地区)で開催される第7回結晶性萌芽材料 粉末回折研究会において

「外部プログラムとの連携を強化した RIETAN-FP」

というタイトルで、今年8回目の講演を行います。ふるってご参加ください。

昨年12月6日の同研究会では、RIETAN-FP v2.3に実装した gnuplot によるグラフ作成機能の全貌を紹介しました。リリース寸前の改訂版について二年連続で語り、年齢不相応な活力がみなぎっている様子を示せることを誇りに思います。

新バージョン v2.5 として結実させたアイデア、すなわち外部プログラム用入力ファイルの生成による能率向上は v2.3 の延長線上にあります。Gnuplot 用スクリプトファイル hoge.plt 相当のものをゼロから書き上げ、試行錯誤でテストし、正常に動作させるのには相当な経験と時間を要します。他方、RIETAN-FP が出力した hoge.plt の一部をユーザーがエディターで修正し、所望のグラフをプロットするのはいとも簡単です。GUI の必要性などまったく感じません。外部プログラムを使う際のユーザーの負担を劇的に軽減してくれるのは堪えられないでしょう。

v2.5では四つのアプリケーション、
  1. チャージフリッピング・プログラム superflip
  2. 最大エントロピー・パターソン(MEP)法プログラム ALBA
  3. 未知構造解析統合システム EXPO2014
  4. 最大エントロピー法(MEM)プログラム Dysnomia
の入力ファイルの雛形を RIETAN-FP が出力してくれるようになり、RIETAN-FP・VENUS 統合支援環境の利便性が向上しました。RIETAN-FP の入力ファイル hoge.ins 中でのフラッグ設定、出力ファイル名、アプリケーションの対応は次の通りです。
  1. NCF = 1: superflip 用ファイル hoge.inflip(RIETAN-FP 終了後にエディターで自動オープン。中性子回折では superflip は使えない)
  2. MEP = 1: ALBA 用ファイル hoge.alb(一種の作業ファイルであり、表に出ない)
  3. NEXP = 1: EXPO2014用ファイル hoge.exp
  4. NMEM = 1: Dysnomia 用ファイル hoge.prf(RIETAN-FP 終了後にエディターで自動オープン)
hoge.inflip の末尾には回折指数 hkl、半値全幅、積分強度 |F|2 のリストが含まれています。今のところ hoge.alb は ALBA 用ですが、将来 Dysnomia に MEP 解析機能を追加した暁には、それに対応させる予定です。hoge.prf は Limited-memory BFGS (L-BFGS) アルゴリズムで MEM の厳密解を導出できるよう改良した Dysnomia の最新版 v0.8 互換となっています。hoge.prf がカレントフォルダーに存在する場合、RIETAN-FP はそれを上書きしないということに注意してください。

誰でも無料で使える Dysnomia v0.8 の出現により、情報エントロピー最大の解を導き出せない 0th-order single-pixel approximation (ZSPA) は時代遅れのガラパゴス方法論に成り果てました。ZSPA しか使えないようなプログラムの存在意義は、今や無きに等しいです。

上記4つの外部プログラムはいずれも無料で入手できるということを特筆大書したいです(EXPO2014はアカデミックユーザーのみ無償)。教育者のはしくれでもある私は、対価を求めずにネット上で公開されていることを科学技術ソフトウェアにおける基本的に重要な「機能」と見なしています。「富める者はますます富み、貧しき者はますます貧しくなる」という不条理を座視するには忍びません。私は常に弱者や貧乏人の味方です。

hoge.inflip と hoge.exp は未知構造解析のエキスパートにアドバイスを要請して、最終的な仕様を決定しました。長く superflip と EXPO を使い込むことにより獲得したスキルを惜しげもなく注入していただいたため、それぞれ dual-space 法と逆・直接空間法による構造モデル構築に威力を発揮します。RIETAN-FP・VENUS 統合支援環境上でコメント・プリフィクス(superflip: #, EXPO: >)を削除し、特定の行をコメント化してから、それぞれのプログラムを実行します。

RIETAN-FP 実行用スクリプト(Windows: RIETAN-FP.bat; OS X: rietan.command)の改造にあたっては、MPF (MEM-based Pattern Fitting) 解析や gnuplot によるグラフ作成用のスクリプト(Windows: Plot_Hidemaru.bat; OS X: graph.command)を製作した時に習得したシェル芸を披瀝しました。実際には MEP 解析は RIETAN-FP が出力した hoge.alb を通じて ALBA が実行するのですが、grep, sed, tail, cut, bc などの駆使により、あたかも RIETAN-FP が単独で実行するかの如く巧みに偽装しています。アクロバティックな離れ業といって過言でありません。これら4つのスクリプトは私の個人的趣味の発露であり、複数のコマンドを組み合わせて複雑なデータ処理を行う UNIX の流儀を具現化する喜びがほとばしっています。

NMEM = 1の場合、さらに MPF 用シェルスクリプト MPF_multi.command までカレントフォルダーに自動生成し、ユーザーの手間を減らします。RIETAN-FP が出力した hoge.prf を必要に応じて変更した後 MPF_multi.command のアイコンをダブルクリックするだけで、hoge.prf 中の指示に従った MPF 解析がスタートします。

私の知る限り、MEP 法で重畳反射の積分強度 |F|2 を改善できるパターンフィッティング・プログラムの出現は世界で初めてです。三つの異なる解析、すなわち Le Bail 解析、個別プロファイルフィッティング、MEP 解析を順次かつシームレスに実行するスクリプトで求めた |F|2 は、RIETAN-FP・VENUS 統合支援環境上で hoge.inflip と hoge.exp を 修正後にショートカットを押すかボタンをクリックすれば、それぞれ superflip と EXPO2014 で解析できます。

|F|2を記録したファイルは2種類あります。MEP 抜きのパターン分解後に出力されるファイルは hoge.ffo、MEP 解析の結果を収めたファイルは hoge.mep です。hoge.exp 中では ref2 命令の後ろにどちらかのファイル名が記録されます。前述のように、hoge.inflip は hoge.ffo と hoge.mep の中身と同等の反射データを内包しています。

なお、v2.5では a, b, c 軸方向に沿った単位胞の分割数に入力を一箇所に絞りました。たとえば Fapatite.ins 中では
If NMODE = 1 then
    Go to *Graph
else if NMODE <> 6 then
    # Unless MEP analysis, Fourier synthesis, or MEM analysis is carried out,
    # set NVOXA, NVOXB, and NVOXC at 0; then, these three are regarded as dummy data.
    NVOXA = 128: Number of voxels along the a axis.
    NVOXB = 128: Number of voxels along the b axis.
    NVOXC =   94: Number of voxels along the c axis.
end if
となっています。最適な分割数は VESTA の Utilities メニューで Model Electron Densities を選び、適当な Resolution を入力すれば、テキストエリアの上方に表示されます。

上記の機能を実現する上で、RIETAN-FP v2.4開発以来好んで使用している内部サブルーチンが大いに役立ちました。新たなサブルーチンを書く際、引数や COMMON 領域を宣言せずにメインプログラムから変数や配列を引き渡せるためです。BASIC 感覚の手軽なプログラミングを楽しみました。また時代遅れな COMMON 領域の追加は控え、モジュールを利用するよう心がけました。

RIETAN-FP v2.4X では、格子定数を精密化している内に、各反射の積分強度を収めた配列 YPEAK と指数 hkl などの配列の対応関係が一部狂うことがまれにありました。重み付き残差二乗和がこれまでに到達した最小値よりも大きくなった場合に、反射の順序を 2θ の小さい順に記録した配列 IPOINT を回復させていなかったのが原因でした。v2.5では、そういう症状が消え失せたはずです。この盲点が白日の下にさらされたのは、孤独なプログラミングを甘受している自分にとって誠に幸運でした。

Windows 用配付ファイルに同梱しているグラフ作成用プログラムについては gnuplot を v4.6.6 に、Ghostscript を v9.15 に更新します。OS X のユーザーは、各自 gnuplot と MacTeX(オプション)の最新版をインストールしてください。Homebrew による gnuplot のインストール法については、「RIETAN-FP への gnuplot の導入」に記しました。

最後に特筆大書しておきたいのは、RIETAN-FP v2.5は RIETAN-FP・VENUS 統合支援環境から実行することを前提に開発したということです。秀丸エディタJedit X はいずれも安価ですし、種々のテキストファイルの編集に使えますので、ぜひ支援環境をお使いください。

国立大学の社会的使命を鑑み、学外者にも解放した無料講演会としますので、RIETAN-FP のユーザーはぜひご聴講ください。学外の参加者はポスター下の問合せ先にメールをお送りください。なお、参加者には RIETAN-FP v2.5 を含む Windows・OS X 用 RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイルを一般公開に先がけて差し上げます。前回の研究会後に組み込んだ裏技 mcz についても、ほんの少しだけ言及します。遊び心の産物なので、ここではその正体を謎のままに留めておきます。

なお、研究会終了後に立食形式の懇談会(有料、学生割引あり)を開くことになりました。もちろん所属が名工大以外の方々も参加できます。
RIETAN-FP・VENUS システムの活用に関するセミナー
7月8日の午後に RIETAN-FP・VENUS システムによる結晶構造の精密化、すなわちリートベルト解析と MPF (MEM-based Pattern Fitting) についてファインセラミックスセンター(JFCC)で講演します:

第13回 ナノ構造研究所 材料計算セミナー

2014年7月8日 (火): JFCC(名古屋市熱田区)

泉 富士夫「RIETAN-FP によるリートベルト解析」&「RIETAN-FP・VENUS システムによる MPF 解析」


これまで材料計算セミナーは、主に第一原理計算をテーマとして開催されてきました。粉末回折データの解析技術が取り上げられるのは、今回が初めてでしょう。

私の所属が名工大だけでなく PANalytical となっていることからもわかるように、5月20・23日に東京と大阪で開催した PANalytical 粉末X線回折セミナーを肥大成長させた、盛り沢山の内容となっています。三大都市で相次いで同様の講演を行うことができ、光栄の至りです。交通の便が比較的良い場所であり、なおかつ無料ですので、中京圏および周辺の方々は奮ってご参加ください。定員に限りがありますので、参加登録はお早めにどうぞ。
「最大エントロピー法による TOF 中性子粉末回折データの解析」講習会
6月15日に試行的に開催した東京理科大学 総合研究機構 エコシステム研究部門主催のセミナーに引き続き、

「最大エントロピー法による TOF 中性子粉末回折データの解析」講習会
2013年9月20日(金)、東京工業大学大岡山キャンパス

を開くことが決まりました。日本中性子科学会誌の2月号のために執筆したサイエンス記事

  • 河村幸彦, 門馬綱一, 泉 富士夫, "粉末回折データの MEM 解析・三次元可視化用ソフトウェアの開発", 波紋, 23, 66-71 (2013).

で紹介した TOF 粉末中性子回折データの MEM 解析技術を100枚以上のスライドを使って伝授し、さらに VENUS システム(Alchemy, Dysnomia, VESTA)などを使った MEM 解析のデモンストレーションも行います。上記のサイエンス記事を一読していただき、ご自分の研究に役立つと判断されましたら、ぜひご参加ください。上記スライドに加え、一般には公開していないファイル・コンバーター Alchemy をお土産に差し上げます。

角度分散型X線・中性子回折データについては RIETAN-FP+MPF_multi+PRIMA/Dysnomia を用いた自動 MPF 解析が利用でき、すでに瞠目すべき実績を挙げていますが、パルス中性子には対応していませんでした。Alchemy を使えば、既成リートベルト解析ソフトの出力ファイルから Dysnomia により干渉性散乱長密度を決定し、さらに VESTA で散乱長密度の空間分布を三次元的に理解できます。

Alchemy が誕生してから7年の年月が流れました。その後、河村氏と私はロスアラモス国立研究所のパルス中性子源 LANSCE との国際共同研究を通じ TOF 中性子回折データの MEM 解析のテクニックに磨きを掛け、ノウハウを蓄積してきました。パルス中性子向けに MEM・可視化用ソフトの最良の選択肢が無償で提供されるのは、大歓迎を受けるに違いありません。

参加登録さえしていただけば、外部の方々でも自由に参加できます。本講習会の開催にご尽力いただいた東工大の八島正知先生に感謝いたします。

ついでに申し上げておくと、近年、私は大学、研究所、民間企業を問わず、要請があると「行くぜ!どこへでも行くぜ!」(某映画のセリフ)と答え、粉末X線・中性子回折に関する出前講義・講演に応じています。能う限り長く社会とつながっていたいという意欲が旺盛で、自分のもつ知識と経験の社会還元を目指しています。今年度は東京理科大学と三重大学に続き上記講習会で3回目となり、4回目もほぼ決まっています。よかったら、声を掛けてやってください。
「粉末X線解析の実際」講習会の参加登録終了
日本結晶学会講習会「粉末X線解析の実際」は6月30日(日)をもって全コースの申込みを締め切りました。ご登録いただいたお客様に厚く御礼申し上げます。また、参加登録システムを構築・運営するとともに、当方の細かい注文や問い合わせにその都度ていねいに応じていただいた国際文献社のスタッフにも感謝します。

お陰様で、7月2日現在、参加者数が260名、A・B・Cコースの参加登録者が計581名という本講習会が17年前に始まって以来の大盛会となりました。これで興行師としての役割はすべて果たしたので、後事は事務局と東京理科大・中井研究室に託します。キャンセルや不参加の人たちが多少出たとしても、日本結晶学会主催の講習会史上最高の参加者数を記録するのは確実です。

Cコースの受講者が170名を上回ったのには驚かされました。なにしろ、MPF 解析や未知構造解析に関する講義を集めた上級者向けコースですから。

本講習会の強みは、なんといってもネット上で無償公開している RIETAN-FP, Dysnomia, VESTA などの使用を前提としているところにあります。無料ソフトの配付を通じた社会貢献活動の原動力となっている利他の精神が共感を呼び、強く支持されているのではないでしょうか。経済的負担なしに入手可能な科学技術ソフトは科学教育にバリバリ活用できます。外国製著名ソフトの単なるレビュー、高価な商用ソフトの販促、大型量子ビーム施設のプロモーションに堕していたなら、有料講習会にこれほど多くの人々を惹きつけるのは到底無理です。強力なソフトを無償で使わせてもらっている上、当該ソフトに関する知識やノウハウが効率よく入手できるのだから、受講料くらいは惜しくないという心情を抱くのは、ごく自然なことです。学生は格安の受講料で済むのも人気の一因となっています。

今回は時間があり余っていたので、プロモーターとしてゲーム感覚で宣伝活動を楽しみました。その実態は、ゲームセンターでハイスコアを叩き出そうと目の色を変えるプロゲーマーと同じようなものです(笑)。本年3月以後、同講習会の開催を知らしめるために投稿した7つのエントリーについては、5月31日のエントリーをお読みください。
「粉末X線解析の実際」講習会に関するエントリー
日本結晶学会講習会「粉末X線解析の実際」(2013年7月8〜10日、東京)は異次元のスピードで参加登録数が伸びています。とりわけ人気が集中しているBコースは早くも5月14日に、Aコースは5月21日に公称定員(160名)に到達しました。Bコースは5月28日に参加者が200名にまで膨れあがったため、申込みを締め切りました。開催日まで40日余り残しての SOLD OUT は前代未聞の快挙です。

本講習会はもともとX線リートベルト解析の技術を世に広めるため、RIETAN の使用を前提としてスタートさせました(「粉末X線回折講習会の歴史」参照)。そのような経緯を顧みると、リートベルト法や RIETAN-FP を中心テーマとするBコースが一番人気の成長エンジンとして集客に貢献したのは喜ばしい限りで、プログラマー冥利に尽きる思いです。

もう一つ「してやったり!」と驚喜したのは、未だかつて公称定員に達したことが一度もないCコースの登録者が5月末日で164名に達したことです。5月中に公称定員を上回るとは想定だにしていませんでした。最終的には170人を越すと予想しています。

望外の盛会となったのは、本講習会のプロデューサー兼プロモーターとして嬉しい限りです。お客様に厚く御礼申し上げます。

同講習会への参加登録が劇的に加速したのはなぜでしょうか。3月5日以来、本講習会の宣伝も兼ねてフルパワーで書きまくったエントリー
  1. (ほぼ)毎度満員御礼 ♠♦♥♣ Must-attend workshop ♣♥♦♠ 17年目
  2. 粉末X線回折講習会の歴史
  3. Web 申込みシステムからの情報の活用
  4. 放射光・パルス中性子施設関連の無料講演・講習会に物申す
  5. 「粉末X線解析の実際」について
  6. MPF 解析における最大エントロピー法プログラム Dysnomia のパフォーマンス
  7. 粉末回折データを用いる未知構造解析のための代表的プログラム
がターボ・ブーストとして機能し、集客革命をもたらしたのかもしれません。「お知らせ+活動記録+たわごと」のアクセス数は3月から格段に増えましたから。

c〜eはもともと本講習会のサクセスストーリーbの一部でした。bが長くなり過ぎたたため一時は削除しかけましたが、結局、再利用することにしました。それでも依然としてbは冗長なままに留まっているのですから、始末に負えません。gは一見この講習会とは無関係のように見えるでしょうが、未知構造解析(Cコース)に用いる無償プログラムに関する最新情報を提供するために投稿しました。

いずれにせよ、本講習会の破格の人気は、粉末X線回折の基礎と応用を集中的に学びたいという実需が旺盛なことを雄弁に物語っています。断固バブルではありません。社会に貢献する教育活動として今後も継続していくことが強く望まれます。

ところで、今回は未曾有の椿事が勃発し、びっくり仰天、目を白黒させました。なんと●●●●が (中略)! しかし、この件に言及するのは自粛しておきます。
放射光・パルス中性子施設関連の無料講演・講習会に物申す
近年、放射光やパルス中性子源といった大型施設が無料の講演会や講習会をしきりに催している。私も J-PARC 関連の研究会に半強制的に駆り出された口だ。RIETAN-FP、VENUS、電子状態計算の話でお茶を濁したものの、瞠目すべき数の参加者を集めたので、さぞかしメーリングリストの充実に貢献したことだろう(2007年11月17日の掲示板「自分らしく生きる」参照)。しかし企画立案や準備に相当な時間を費やすため、J-PARC 普及に対するインセンティブが皆無の私としては、迷惑千万だった。先の短い研究者の時間を収奪するのもいい加減にしてほしい。

貴重な税金と電力を湯水の如く費消している以上、「一部の専門家以外も使っているし、産業利用にも立派に貢献しています」というポーズを監督官庁に示すとともに民間企業や非専門家も勧誘しないと、生き残れないのだろう。しかし、タダはタダだけのことがあるのは言うまでもない。だからこそ、有料の「粉末X線解析の実際」講習会が毎回満員御礼になるのだ。

大型施設の客引き用イベントなんて、銀行が投資信託、外貨預金、変額保険などの勧誘のために開く投資セミナーの如きものだ。お為ごかし以外の何物でもない。いくら参加が無料だといっても、人件費、旅費、時間を消費するのだから、本当に自分(の組織)にとって有益なのか、施設が助かるだけなのか否かを慎重に判断すべきだ。

手柄にもならない催しのためにわざわざ多数のスライドを新たに作成するとともに、貴重な情報を披瀝する奇特な講師は稀だろう。ほとんどは使い回しのネタを再利用し、手抜きするのに決まっている。論より証拠、自分自身がそうだった。w

詳細なテキストや専門書抜きで講演や講義だけ安直に取り揃えたところで、実戦に役立つ知識やノウハウがすんなり身に付くとは到底思えない。必要に応じていつでも参照できる日本語教科書が初心者には必要不可欠だ。とくに中性子ムラの住民以外にとって理解しにくいパルス中性子散乱については、明快かつ平易な教科書を赤字覚悟で出版することが急務だろう。

大型施設肝いりの企画がいただけないのは、自分たちにとって都合の悪い「不都合な真実」については口をつぐむことだ。施設関係者の講演・講義はポジショントークのオンパレードといって過言でない。有機化合物やタンパク質に顕著な水素の非干渉性散乱による S/N 比の大幅な悪化(中性子回折)、高温はもとより高 Q 領域でも急激に増大する熱散漫散乱(中性子・X線回折)、XAFS・PDF 解析が人や流儀によって 異なる結果を与える恣意的な解析技術であることなどをひた隠しにしてはいないか。熱散漫散乱はTOF中性子回折でとくに深刻な系統誤差を含む観測積分強度を与える。施設側に都合の良いバイアスのかかった歪んだ情報を提供されると、人手とお金を浪費しかねない。

それに、それらの施設は解析ソフトをローカルな存在に留め、ネット公開を避けている(「ムラ社会の掟」参照)。グローバル化を目指した英文ドキュメンテーションが貧弱なのは想像に難くない。日本語の簡易マニュアルしかないのが大半だろう。自信のなさ、けちくさい出し惜しみ、露骨な囲い込み戦略が透けて見えるのでは興ざめするだけだ。
Web 申込みシステムからの情報の活用
昨年暮れから日本結晶学会講習会「粉末X線解析の実際」の企画立案・宣伝活動に従事している。その過程では、国際文献社が構築した Web 申込みシステムのバックヤードで取得したコース別登録者数などのデータを「粉末回折情報館」ブログツイッターを通じた宣伝・集客活動に直接フィードバックしている。これほどインターネットを徹底活用した学協会主催の行事は稀だろう。もはや学会誌、すなわち印刷物での PR などさほど頼りにならない時代なのだ。

今回の目標は、A・B・C コースがバランス良く定員に達することだ。前回、A・B コースに比べて客の集まりが悪かったCコースにテコ入れするべく、知恵を絞った。前回(2011年)の A・B コースのような定員の大幅超過は受講環境の劣化と会場の混雑を招くため、個人的願望としては避けたい。今となっては、あの広い記念講堂を満杯にしてみせるなどという過剰な闘争心は萎えてしまった。いくら参加者数を誇示したところで、主催学会に収益金を吸い上げられるだけで、何の益もない。

今回は、目標に近づいてきたら宣伝を手控え、受講環境が悪化せぬよう最終参加登録者数をほどほどの値に調節しようと目論んでいる。具体的には、前々回(2009年)のときの登録者数(A・Cコース:ほぼ定員、Bコース:177名)が理想に近い。大黒柱である B コースが定員を多少オーバーするのは致し方あるまい。しかし、実質的に何人集まったところで募集を打ち切るのかを決める権限は持ち合わせていないので、参加者数を所望通りに調整するのは、まず無理だ。

自分がこれまでのように本講習会の企画、宣伝、講義のためにフル回転できるのは、今回が最後のような気がする。ボケてしまったり健康を害したりする恐れが多分にある。世代交代と内容の全面的刷新の必要性を痛切に感じる。

なお、今回から私の所属は物質・材料研究機構(NIMS)から名古屋工業大学に変わった。本講習会は同大学客員教授としての活動に他ならない。といっても、NIMS と名工大は連携している上、NIMS から依頼された仕事を請け負っているため、相変わらず毎日 NIMS に通勤している。
粉末X線回折講習会の歴史
東京理科大の中井 泉氏(猿回し)と私(猿)の二人三脚で1996年以来、粉末X線回折に関する講習会を計12回開催してきた:
  1. 日本分析化学会X線分析研究懇談会 第5回X線分析講習会「粉末X線リートベルト解析」、東京理科大学 理窓会館、1996年7月。
  2. 日本分析化学会X線分析研究懇談会 第6回X線分析講習会「粉末X線リートベルト解析」、東京理科大学 理窓会館、1996年12月。
  3. 日本分析化学会X線分析研究懇談会 第7回X線分析講習会「粉末X線リートベルト解析」、化学会館、1998年8月。
  4. 日本分析化学会X線分析研究懇談会 第9回X線分析講習会「粉末X線リートベルト解析」、東京理科大学 神楽坂キャンパス、1999年12月。
  5. 日本分析化学会X線分析研究懇談会 第10回X線分析講習会「粉末X線リートベルト解析」、化学会館、2002年2月。
  6. 日本分析化学会X線分析研究懇談会 第11回X線分析講習会「粉末X線リートベルト解析」、大阪科学技術センター、2002年10月。
  7. 日本結晶学会 講習会「粉末X線解析の実際」、東京理科大学 神楽坂キャンパス、2005年7月。
  8. 日本結晶学会 講習会「粉末X線解析の実際」、東京理科大学 神楽坂キャンパス、2007年7月。
  9. 日本結晶学会 講習会「粉末X線解析の実際」、東京理科大学 神楽坂キャンパス、2009年7月。
  10. 日本結晶学会 講習会「粉末X線解析の実際」、東京理科大学 神楽坂キャンパス、2011年7月。
  11. 日本結晶学会 講習会「粉末X線解析の実際」、東京理科大学 神楽坂キャンパス、2013年7月。
  12. 日本結晶学会 講習会「粉末X線解析の実際」、東京理科大学 神楽坂キャンパス、2015年7月。
この間、中井氏はもとより私も多忙だった。複数日にわたる講習会を実質的に個人レベルで開くには相当なエネルギーと時間を費やす上、研究関連イベントの浮き沈みが激しいのは芸能界と同様だから、よくぞ10回も開催し続けたものだと感心する。おまけに、講習会のテキストを発展させる形で出版した「粉末X線解析の実際」は初版、第2版ともロングセラーとして売れている。自画自賛は気が引けるが、類い希な偉業を成し遂げたと言ってよい。以下、過去17年の歴史を振り返り、講習内容よりはプロモーションに重点を置いて、これらの講習会にまつわるレトロな秘話を語ることにしよう。何分にも長々しいので、間違った記述も含まれている可能性がある。事実誤認、書き漏らしたこと、苦情などは直接私にご指摘いただきたい。

そもそも、RIETAN を用いたリートベルト解析の初心者用講習会をX線分析研究懇談会の主催で開催するのは、当初、明治大学の中村利廣教授から持ちかけられた話だ。中村教授に旧無機材研にお越しいただき、実習方法などについて打ち合わせしたのをうっすら覚えている。しかし、その後一二年は音沙汰なしだったため、諸般の事情からその企画は立ち消えになったのだと思い込んだ。もう忘れかけていたころ、ある日突然、世話役を知人の中井氏に変更して開催したいという提案を受けた。中井氏は彼が学部4年の時、テストチューブ型高圧容器を用いた水熱合成の実験法を教えて以来、懇意にしており、一緒に共同研究を実施したこともあった。リートベルト法の普及のため、一も二もなく承諾した。そして、リートベルト解析に最小限必要な結晶学の基礎から教えるという基本方針で臨むということで合意した。一般に、粉末X線回折のユーザーは結晶学の知識に乏しく、事前に学ぶべきことがかなり多いのである。過去の経験から、大学(院)における結晶学の教育が不十分であることを身に染みて感じていた。一部の大学では、教員自身の再教育も必要とさえ思っていた。

No. 1No. 2は東京理科大の理窓会館で開催した。理窓会館は神楽坂の真ん中あたりを右手に曲がり、しばらく行った南側にあったが、その後、森戸記念館の建設と相前後して姿を消した。総武線、有楽町線、東西線、南北線、大江戸線の駅が集中しており、東京駅から15分足らずで着く飯田橋駅は、都心でもとりわけ交通の便が良いスポットだ。遠方から来られる参加者も多い講習会にとっては、絶好の立地条件だといって過言でない。おまけに神楽坂界隈は飲食店が密集しており、参加者が昼食を食べに行くのにも便利だ。

No. 1の5ヶ月後に No. 2を開いたのは、100名程度で満席になる手狭な会場だったことから、No. 1を開催したとき定員を超過したためだったと記憶している。私は3コマの講義を担当した。今でもはっきり覚えているのは、放射光を用いた未知構造解析について話し始めたとたんに中井氏が伝言メモを私に見せたことだ。そこには、初心者対象の講習会なので、放射光に関する話は止めるよう指示されていた。最先端技術を少しくらい紹介しても構わないじゃないかと内心反発しつつも、早々に話を打ち切った。今日、放射光粉末回折が広く普及し、産業利用も着実に拡大していることを思うと、文字通り隔世の感がある。

No. 3のときは、理窓会館よりも多少広い化学会館ホールに会場を移した。ところが真夏に開催した上、最上階の7階ホールが満席になったため、エアコンが故障した訳でもないのに空調がほとんど効かなくなってしまった。室内は30 ℃ を超えていただろう。人いきれがはなはだしかった。日本化学会は満員御礼などあり得ないという想定で、非力なエアコンを設置したのではなかろうか。当時は OHP を使って講義したが、汗が一滴 OHP シートの上にしたたり落ちたのを覚えている。それでも、参加者からは苦情は出なかった。当方の落ち度ではなかったものの、不快な状態での聴講を余儀なくされた参加者には本当に申し訳ないことをした。今でも胸が痛む。

No. 4については、実のところ、ほとんど記憶にない。No. 3の時とほとんど同じ内容だったはずだ。RIETAN-2000の作成が大詰めを迎えていた時期だが、その次世代プログラムについては黙して語らなかっただろう。

RIETAN-2000のマニュアルも兼ねた「粉末X線解析の実際」初版の刊行と同時に開催した No. 5では、三日目に解析実習(東京理科大 近代資料館ターミナル室)、四日目に測定実習(理学電機、マックサイエンス)も行った。この時は変則的に日本結晶学会主催の初心者向け講習会「粉末X線解析の実際」(現在の A コースに相当)を直前の2月4日に開催したが、そちらの講師は務めなかった。No. 5の模様については、粉末回折情報館の掲示板(2002年2月8日)をそのまま引用しておく:
ついに「粉末X線解析の実際 ― リートベルト法入門」が出版され、それをテキストとして配布したX線分析講習会が無事終了しました。いろいろな文書、解説、書籍にプログラムに関する説明が散在し、ドキュメンテーションが不十分だった(公式マニュアルがない!)RIETAN-2000ですが、迷える RIETAN-2000ユーザーにこの本が救いの手を差し伸べてくれることでしょう。(中略)なお,恐れおののいていた RIETAN-2000の実習は、予行演習とテキスト配布の甲斐あって、とくにトラブルもなく順調に進行しました。予想外でした。化学会館ホールでの講習会の間に、公衆電話の横で3D 可視化プログラムの sneak preview を行いました。受付をしてくれていた中井研究室の女子学生に「何を実演しているのか掲示しましょうか。」と聞かれ、「結晶構造と電子・核密度の三次元可視化プログラム VENUS」と書いたメモを渡し、ビラを作ってもらいました。この呼称は正真正銘、とっさに閃いたものでして、ビラを貼ってもらった後で、Visualization of Electron/NUclear densities and Structures と語呂合わせしました。愛と美の女神の名にふさわしいソフトになれるかどうかは、今後のポリッシュアップにかかっています。
唯一、大阪で開催した No. 6では、苦汁を味わうことになった。「粉末X線解析の実際」初版を刊行したばかりだし、たまには関西で開いたらどうかと軽い気持ちで私が提案したのだが、お盆のころになっても参加者がろくに集まらなかった。あわてて宣伝や勧誘に精を出し、損益分岐点(50名)を少々越す60数名の参加者をかき集めたと記憶している。ほうほうの体でつくばに帰還した。過去の経験から、大阪や名古屋で開催する有料講習会は、東京に比べお客の数が激減することがわかっている。ざっと東京:大阪:名古屋 = 10:7:4といったところだ。なにしろ、約20年前に名古屋で開催した粉末X線回折の講習会(やはり日本結晶学会主催)では、収入不足で赤字になりそうなので講師への謝礼はゼロにしてほしいと世話人から求められ、唖然としたくらいだった。あまつさえ、前年のバブル崩壊で不景気風も吹きまくっていた。大阪と名古屋は鬼門だ、もうこりごり、と後悔した。首都圏やその周辺の研究・教育・開発組織のメンバー数と経済力は群を抜いているのだということを思い知らされた。都心の集客力を100とすれば、大阪が70、名古屋が40というのが実感である。この学習効果を踏まえ、以後、ホームグラウンドの神楽坂からは二度と足を踏み出さなくなった。普通は60名を越す人たちが集まれば大いばりなのだが、過去の実績と比べるとトホホな数字だった。この失敗は今でも強烈なトラウマとして脳裏に焼き付いており、慢心を戒めてくれる。

当時の掲示板には
講習会の席で、新 MEM 解析プログラム(注:PRIMA のこと)のベータ版を11月中に必ずリリースすると宣言しました。ほとんど初心者ばかりの場で大見得を切ったところで仕方ありませんが、自らの背中を押すために敢えてそうしました。このベータ版を出発点として、段階的に完成させていきます。
と記されている。落胆を包み隠し、まだ完成途上のプログラムについて言及して虚勢を張った様子が窺える。

No. 7日本結晶学会主催に変更され、三年後に開催された。客足は戻ったものの、いかにも端境期という感じの沈滞ムードの漂う講習会だった。横軸が2θ でなく、格子面間隔 d の粉末回折パターンを示す講師がいたのには、手抜きにも程があると呆れ果てた。古いネタを無修正で使い回したのだろう。肝心の中身もおざなりで精彩を欠いていたため、次回この人は無慈悲にリストラした。自分の講義では VICS-II をお披露目したが、等値曲面を描く VEND に対応する部分が欠けているようでは迫力不足は否めなかった。講師と中身を大幅に変更しない限り、カビ臭くなり勢いを失っていくだけだという危機感を抱いた。

翌年の2006年以降、NIMS の量子ビームプロジェクトが発足し、その一環として RIETAN-2000の後継となる RIETAN-FP の開発と英文マニュアルの執筆を平行して進めた。本講習会以外の催しへの出番も必然的に増えた(「講演と講習のお知らせ」参照)。オーバーワークは明らかだったが、量子ビーム分野における NIMS の存在感を外部に示してほしいという要望に応じざるを得なかった。能う限り大勢の参加者を集めるべく、ホームページを通じた売り込みに腐心するようになったのは、この頃からである。

No. 8の時は A・B・C コースを三日にわたって開催するようフルモデルチェンジした。当時「粉末X線解析の実際」初版が望外のロングセラーとなっていたため、朝倉書店から第二版の出版にゴーサインが出ていた。同書の改訂を念頭に置き、近年、急速に利用が拡大してきた未知(ab initio)構造解析技術に関する講義三つを C コースに入れるとともに、MEM/MPF 関連の講義も補強し、新鮮味を醸し出した。時代の流れに応じて、RIETAN の習得を主目的とする初心者向け講習会から、より高度な解析法も教えるよう進化させたということだ。

No. 9「粉末X線解析の実際」第二版の出版と同時に開催した。No. 9の参加者を募集していた期間は、折悪しく、前年のリーマンショックがもたらした世界同時不況に加え、感染力の強い新型インフルエンザが猛威を振るっていた時期と重なってしまい、大勢の人たちが集まる場は敬遠される傾向にあった。参加者の激減におびえたが、まったく杞憂だった。A・C コースはほぼ定員 (160名) に達したし、B コースは定員を17名も上回るという盛会振りだった。「粉末X線解析の実際」第2版の出版直後だったのが、幸いしたのかもしれない。数名の参加者から同書にサインするよう頼まれた。この時は応用事例の執筆者を招待してポスター発表していただくとともに、出版記念会も森戸記念館で開いた。大盤振る舞いした上、参加費を少々安く設定しすぎた挙げ句、日本結晶学会への上納金が激減してしまったと、後日、中井氏から聞いた。当時、財政難のボンビー学会にとって多額の収益を収めてくれる本講習会は、貴重なドル箱だったのである。なお、粉末回折情報館の掲示板(2009年7月15日)に No. 9の総括が記載されているので、参照されたい。

No. 9以降は、早稲田通りに面した中華料理店「龍公亭」の上にある東京理科大のゲストハウスに二泊三日で泊まり込み、毎日、会場に陣取るのが恒例となった。スリッパ、タオル、石けん、シャンプー持ち込みの殺風景な部屋だが、テレビとネットは使える。歓楽街の真ん中なので、フラっと遊びに出たくなるが、翌日のことを考え、控えている。第一、受講生がその辺をぶらついている可能性が高い。

No. 10の参加者募集がスタートしたのは2011年3月の東関東大震災、福島第一原発のメルトダウンに端を発する大混乱の最中だった。3月末に予定していた情報機構セミナーは急遽中止を余儀なくされた。余震が頻発し、放射能が拡散し、電力事情が極端に悪化する中、じっくり粉末回折について勉強しようという機運が盛り上がっていないのは火を見るほど明らかだった。同年1月に開催された「粉末X線回折を用いた有機結晶構造解析の実際」講習会の集客が芳しくなかったことも耳に入っていた。名古屋開催のハンデを考慮しても、損益分岐点を大幅に下回る悲惨な参加登録数だった。そもそも「粉末X線解析の実際」講習会と内容・講師がかなりオーバーラップした講習会を同一学会の行事スケジュールに強引に割り込ませてくるのは異例かつ理不尽な話で、先に開く方が有利なのに決まっている。まさに「仁義なき戦い」だ。多額の収益をプレゼントしてきたにもかかわらず、なんでこんな無礼な仕打を受けなければならないのかと、憤りすら感じた。そのような先攻講習会があっさり轟沈したということは、粉末回折技術習得の需要が減少している可能性があった。それが事実なら、大震災後に開催のこっちはもっとヤバい。夏場の電力事情がはっきりしないことも不安の種だった。私の危機感は頂点に達し、今回の講習会は深刻な打撃を受け、各コース100人ずつ集まれば上出来と覚悟を決めた。しかし逆境にへこたれることなく、ホームページ、ブログ、Twitter を広告塔とし、鬼神のようなヘビーローテーションに励んだ。

それだけではない。当時は RIETAN-FP の後継ソフトがベーパーウェアとして消滅してから日が浅かった(「RIETAN-2000と RIETAN-FP」参照)。本講習会は元来、RIETAN を用いたリートベルト解析を主として教えるために始めたのだ。私が RIETAN-FP を中心とするソフトの開発を怠るようになれば、今後、本講習会の人気は凋落していく一方だろうと危惧した。そこでハイブリッド・パターン分解の機能追加と lst2cif の全面改訂に励み、未だに現役プログラマーとして活動していることを印象づけるよう努めた。

蓋を開けてみると、
  • No. 10 (2011) –– A: 201, B: 206, C: 144
という堂々たる横綱相撲を取ることができた。 C コースはやや物足りないが、未知構造解析を中心テーマに据えている以上、仕方あるまい。未曾有の国難の中、未だかつてないほど多くの方々にお集まりいただいたことに感謝すると同時に、自分はまだまだ社会に貢献し得る存在であり、しかもプロモーターとして成熟したのだと実感した。

現時点で顧みると、前回までに比べ参加者数に明確な段差がある原因は、Twitter で宣伝し始めたことしか思い当たる節がない。大した宣伝効果である。

A・B コースの人気は No. 11 (2013) と No. 12 (2015) でも一向に衰えず、喜ばしいことに C コースの受講者が30名弱も増え、No. 12 では延べ参加者数587名という最高記録を樹立した。
  • No. 11 (2013) –– A: 199, B: 200, C: 173
  • No. 12 (2015) –– A: 201, B: 214, C: 172
No. 12で B > A > C というコース間格差が生じたのは、収容人員の限界に達したため B コースの参加登録を締め切った時点で A・C コースに参加する意欲が萎えてしまった方々が多く、両コースの登録者数が頭打ちになったためだろう。なんといっても RIETAN-FP によるリートベルト解析を中心テーマとする B コースは本講習会の中心的存在なのである。

これほど長く定期的に教科書に基づく講習会を鳴り物入りで開催し続けると、過去の参加者が自分の部下や学生に参加を奨め、それらの参加者が数年後に後輩に、というサイクルが自ずと確立する。講師の知名度が低く、テキストが充実していない、急ごしらえの単発企画では、こうは行かない。結晶学の基礎を教え込む力量のある大学教員はさほど多くないだろうから、結晶学や粉末回折に関する教育を丸投げできるのも、大助かりなのだろう。いったんそのような確固たる教育システムが出来上がってしまったからこそ、大震災の影響をまったく受けなかったのだと思う。

もう一つ見逃せないのが、本講習会ではネットで公開している RIETAN-FP と VENUS の両システムを大黒柱に据え、主として実績と定評のある無償ソフトについて教授するのを基本方針としていることだ。名古屋の講習会(2011年)がポシャったのは、無償ソフトのプログラマーが講師陣に皆無なのも一因だろう。確かに製作者自身が自作ソフトについて語るのは迫力が違うが、第三者による使用実績(国際誌に発表された論文で使用)がほとんどない商用ソフトに関する講義では、販売促進用の宣伝と見なされ、敬遠されるのが落ちである。大金を払って購入しなければならぬソフトについて学ぶため、さらに聴講料までふんだくられるのではたまったものでなかろう。ソフトベンダーが無料講習会を開くのが筋ではないか。「粉末X線解析の実際」講習会では、教育への活用が困難だからといって商用ソフトを完全に排除するような極端な措置にまでは踏み切らないが、あくまで脇役として扱っている。社会教育活動を実施する上での、そのような姿勢が参加者に高く評価されているのではなかろうか。

ここまで実績を積み上げ、粉末回折ユーザーの裾野を広げて来ると、一種の「文化活動」に近い存在になっていると思う。このような快進撃が今後ずっと続くとは思えぬが、今回も精一杯プロモーションに励もうと思う。

No. 6を除けば常に満員御礼の講習会をすでに12回も催したのだから、参加者の合計は膨大な数に上るだろう。粉末回折情報館の掲示板(2003年6月29日)に記した「花嫁の父親」も受講者の一人に他ならなかった。この方は私よりも年が大分上なのに、リートベルト法について学ぶために受講してくれたのだった! RIETAN-2000/FP に関する論文の総被引用数が着々と3000に近づきつつあるのも、むべなるかな。本講習会の開催や「粉末X線解析の実際」の上梓を通じて、我が国における粉末回折データの解析技術の普及にかなり貢献できたのではないかと自負している。
(2017年4月2日に補筆)

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